広辞苑第七版で思い出した22年前のある事

1月12日、10年ぶりに改定版が出版された岩波書店の『広辞苑第七版』にはおよそ1万の新語が掲載されたそうです。しかし、その中の二つの意味が間違っていると指摘され、話題になっています。25日に岩波書店はこの過ちを認め、岩波の公式サイトに訂正を載せる一方で、次版では訂正する旨の声明を出しました。
ワインを長く愛されている方ですと、岩波が間違った、と聞くと「そういえば・・・」と思い出すことがあるのではないでしょうか。

その本とは1996年に刊行された岩波新書『ワインの常識』で、帯には「ワインは難しいか?日本人のためのワイン入門」と謳っています。ちなみに岩波の公式サイトでは<ワインというと肩に力が入りがちだが,こよなく楽しいこの「液体の食物」をもっと気軽に生活にとり入れるにはどうしたらいいか.それにはワインは難しい,ワインは銘柄ものに限るといった偏った常識から自由になる必要がある.豊かな実践経験をもつ著者が,日本人ならではの仕方でワインに親しむための知識と知恵を伝授する.>と紹介されています。あの岩波新書がワインの本を出すというので、当時注目を集め、ソムリエの資格を取って2年目の私も、すぐに買いに行ったものです。確か9月頃の発売だったと思いますが、年を越すころには、10刷となっていた記憶があります。それだけ注目され、売れたということです。

ところが、読み始めてすぐに眉をひそめるような表現や、誤りに出くわしました。私はすぐに間違いをチェックするために、もう一冊買い足すと同時に、知り合いの割とインテリなワイン好きの人々に連絡を取ってみました。中には同じようにこの本に違和感を感じている人もいました。暫くすると知人である著名なワイン・マニアがこの本の誤りを書籍にするためにまとめている、という情報が入りました。当時、まだ電子メールなんていうものはありませんので、私が確認した部分をその方にお送りいたしました。

この本は220ページの新書としては標準的な分量です。しかし問題はその誤りの数でした。『広辞苑第七版』は新しく追加された1万語の中で過ちは二つ。『ワインの常識』の場合は、優に200を超えるのです。

間違いがあると気づいて、探し始めると、面白いことに、間違いと断定する物差しがだんだんとぶれてきます。また、読む人によっても間違いではないが表現が妥当ではない、などというところまで、誤りに分類されてしまいます。いろいろ聞いてみましたが、この岩波新書の『間違い』は200から270と言ったところでした。まぁ、コンスタントに、1ページに一つ間違いがあると思って宜しいでしょう。こんな『ワインの常識』の本ですから、ワイン初心者にはとてもお勧めできません。「日本人のためのワイン入門」なんてとんでもないことです。ただし、長くワインを学んでいらっしゃる方、ソムリエ協会の資格でも取ってみようという方にはぜひお読みになることをお勧めします。<ワインの常識>に関する非常に良い問題集と言えます。残念なことに、現在書店では手に入りません。岩波の公式サイトでは、絶版ではなく、品切れとなっています。権威ある岩波新書、200を超す誤りを認めたくないのでしょう。

それではどのようにこの問題集を手に入れたらいいのでしょう。ご安心ください。amazonで何と1円から中古を買うことが出来ます。
問題集を買ったはいいが、答え合わせは??これもご安心ください。人間の科学社から『岩波新書「ワインの常識」と非常識』という本が出ています。これもamazonで中古本をお探しください。

話は、『広辞苑第七版』に戻ります。こうした出版社が力を入れている本を出す際には、出版社側は販売協力費という「お金」を書店側に出すことが往々にしてあります。『広辞苑第七版』の場合、岩波書店が出すのは、20部売ると、5000円、100部売ると3万5千円、500部売ると25万円という具合になっています。
『広辞苑第七版』は普通版が9000円ですから、500部ですと、4,500,000円売り上げると25万円キックバックがあるということです。
その分安くするか、間違えたところを直せるようなシールでも配ればいいと思うのですが。サイトで公開しておしまいにする、というのは、岩波書店というのはどこまで読者のことを考えない出版社なのでしょうか。

ちなみに、私の手元にあるのは大学時代から使っている第四版、電子辞書の中に入っているのは、第六版です。よく使うのは、三省堂の『国語辞典』です。

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